月夜見

     一人で十分? 〜大川の向こう

 
今時はテレビのみならずネットの動画なんてものも身近にあり。
居間のテレビで接続可能というツールも手軽に入手できる昨今なため、
PCを操作出来なくとも接することが可能となった分、
子供たちの得られる情報はずんと過多になったと思う。
テレビアニメなぞ、放送が終わった直後にネットでも提供されていて、
その大半が ダウンロードするのではない“ストリーミング”という手法なため、
待ち時間もほぼ不要とあって、
見たいときにすぐという簡便さが当たり前となりつつあり。
放映される曜日やチャンネル、始まる時間を覚え、
週に一度の放送をワクワクと待ち、
翌日の教室で友達とああだこうだと語ったなんてのは
もはや昭和の話となりにけり…なのだろか。


とはいえ、
おさない子供たちがワクワクとその活躍に胸躍らせる対象は、
昔とそうそう変わってはおらず。
特撮ヒーローやアニメの主人公のみならず、
時には芸能人や五輪などで活躍したスポーツ選手等々、
多岐にわたってはいるものの、おおむねその活躍を目の当たりにした対象。

「でも、今時の特撮ヒーローとか魔女っ娘ものは
 玩具会社との提携でやたら小道具が出てくるのがなぁ。」
「そうっすねぇ。」

サリーちゃんなんてシンプルなタクト一本だったのに。
初期の仮面ライダーは、ベルトに風を受けてプロペラが回れば変身できたのに。
イマドキのは、宝石とかオーブを幾つも集めなきゃ効果的な技が放てないとか、
ベルトに幾種もあるツールを差し込むことで、いろんなタイプに変身分け出来るとか、
それとこれとあれが合体したのが
その体高ってのは矛盾してないかって巨大ロボットになったりとか、
ものによってはその進化が結構ややこしい。
いくら子供は柔軟で覚えも早いとは言っても、
ルーチンワークのようにいちいち段取りがある変身とか必殺技とか、
逆に面倒になる子もいるようで。

「ルフィなんてその代表格だもんな。」

そりゃあもう可愛い可愛い、
目に入れても痛くないとは思うのだが当人が逃げ回るのでやってみられないのが残念だと、
ややこしい惚気を口にする赤髪の父上が、
自社事務所で帳簿の決済をこなしていた手を止め、
くくと小さく笑って言うのが、

『テレビで観てる時は かっけーっvvて思ってワクワクすっけどさ。』

ヒーローが敵の罠にはまって窮地に立たされたり、
強力な武器で執拗に翻弄されていると、
小さな手をぐうに握って
頑張れ頑張れとテレビ画面を食い入るように見つめもするが。
さてお友達と一緒に公園などでごっこ遊びを始めるとなると、
ドラマチックな段取りを組み立てるのもなかなか面倒で。
でも、苦境の中で仲間から渡されるツールを合体させねば変身できないとか、
新技が使えないなんて制約があったり、
クルクルと何回か廻って羽衣みたいなマントにくるまってからじゃないと
二段変身まで運べないとか。
そういう細かい約束事は、
初登場した折はちゃんと覚えられるかを競い合っての熱中するが、
数日も経つとただただ面倒になるらしく。
手に掲げて空をぶ〜んと飛ばせてみたり、
小さなビル群や立体駐車場がはめ込まれた、箱庭のような街の地図の上で、
怪獣の人形と戦わせて遊ぶためのヒーロー人形は大事にするものの、
バトンとか何とかボックスとかいった小物はすぐに失くして、
しかも探すほどの関心もなくなるのがウチのガキ大将、ルフィさんの常套だったりし。

「その点、
 忍者ものはやっぱり王道で、人気もあるよなぁ。」

何しろ昔からの定型が依然として通用するほどにポピュラーで、
ままごとぽい我流のドラマを熱演中に
いきなり混ざった顔ぶれがあったところで、
“おお援軍が来た”と持ってけばさほどに支障は出ない。
裁縫用の長い物差しを背に負うた刀とし、
あとは折り紙で作った手裏剣とと、小道具はあまり要らないし、
何となれば“○○の術”と口走り、
消えた真似とか跳べるようになった真似とか、
すきずきな忍術を繰り出し合っての大騒ぎが出来て。




 「にんぽー、ぶんしんのじゅつっ。」


ルフィさんの最近のお気に入りは“分身の術”であるらしく。
そろそろ葉っぱの方が存在感を出してきた、
里のあちこちに立派なのがある桜の足元から、
散って溜まった花びらを集め、ビニール袋に詰めたの片手に。
えいやっと尤もらしい掛け声とともに、
小さな手のひらに握りこんだそれ、ぱあっとばら撒きつつの煙幕代わりにし、

「じゃーんっ♪」

という効果音とともに胸を張って、
術が成功したぞというポーズを大威張りでとって見せる。
胸から腹から突き出しての自慢げなポーズを見せられた側としては、

「わっ、凄いなぁルフィ。
 あっちの屋根の上にもいるじゃない。向こうの柿の木にもいるねぇvv」

わあ、もう見えなくなっちゃった、素早いねぇなんて、
それはお上手に乗ってくれるのがマキノさんやシャッキーさんなら、

「そんな沢山になられちゃあ、やかましくて大変だよ。」

へいへいと適当に調子を合わせるだけなシャンクスとかエース辺りは、
何おう?と王子様から膨れられ、小さな御々足で向う脛を蹴られたりもして。

「忍者は強ぇえんだぞ?
 たっくさんのオレがあわられて敵の大きいのをやっつけるんだッ。」
「あらわれて、が正解な。」

物差しを得物にしたチャンバラもどきで、
それは上手に何度も受けては弾き、押しのけては来い来いと
どこに打ち込んだらいいのかを目線で誘ってやって、
結構カッコいい忍者同士のつばぜり合いを演出してくれる
いがぐり頭の剣道少年のお兄ちゃんが、舌っ足らずをそうと訂正してやってから、

「ルフィがたくさんになるとなると、俺はどのルフィを構ったらいいんだ?」
「??」

何を言い出したのかに追いつけず、キョトンとしてしまう小さな王様。
それへ、にこりともしない真面目なお顔でゾロが続けたのは、

「だからよ、
 食いしん坊のルフィを構えばいいのか、
 遊ぶのが好きなルフィの相手をすればいいのか、
 俺は一人しか居ねぇから決めといてもらわねぇとな。」
「う〜〜?」

まだちょっと追いついてないながら
決めといてくれと言われたのでう〜んと考え込んでみた坊や、

「じゃあじゃあ、分身しない。」

 遊ぶのも食べるのも昼寝もしたいから、
 ゾロと遊ぶときはオレはオレだ、と。

誰への どの方向への大威張りなのやら、
決めてやったぞと胸を張り、
うくくと笑ってお兄ちゃんの顔を見上げる小さな王子へ、

「そか。」

もしかして何か欠けちゃうとルフィじゃねぇじゃんと思いでもしたものか、
それが正されたのへ やっと納得がいったものか、
小さな剣道少年もお揃いの笑い方をして、
周囲の大人たちを おやまあと苦笑させたのでありました。






  〜Fine〜  17.04.25.


 *ちょっとだけ本誌ネタバレかも知れない“分身の術”ネタでした。

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